『Hunted』冒頭部試訳 その2

午後二時少し前に交代要員のトニー・カナギが到着した。飼育舎を通って放牧場にやってくると、ヒスワリ語でフェストに挨拶をしたあとまっすぐジェーンのいるところへやってきた。 「オル・ファラジャのレンジャーから聞いたんだが、C76号線の北側の廃屋に銃…

『Hunted』冒頭部試訳その1

フクロウがサイの飼育舎に巣を作ってから一カ月以上が過ぎていた。雛はもう巣立とうとしている。 ジェーンは屋根の隅にとまっているメスのフクロウを見つめた。特に注意をしていなければ見落としてしまいそうなほど目立たない。長い耳と閉じた目は屋根の構造…

『overkill』by Vanda Symon 冒頭部試訳 その2

男が戻ってきて道具袋をテーブルの上に叩きつけるように置いた。 「なぜ?」ギャビィはもう一度言った。「なぜこんなことをするの? わたしがあなたに何かした?」 「おれに? 何もしてない。おれはただ仕事をしているだけだ。まずいことってのは、いつ起こ…

『overkill』by Vanda Symon 冒頭部試訳 その1

その日、ギャビィ・ノウズは死ぬ運命にあった。前触れは何もなかった。災いを告げるフクロウの鳴き声も、不吉な鐘の音も。人を疑うことを知らない彼女の育ちのよさが、死神を招き入れたのだった。 男は礼儀正しく身分証を見せ、この地区に通信障害が起きてい…

『The Bird Tribunal』冒頭部試訳 その2

シーグルの寝室は一階の、キッチンと居間の先にあった。おそらく窓は庭に面しているだろう。仕事部屋へは寝室を通ってしか入れないようになっている、と彼は言った。 「ぼくはだいたいいつも仕事部屋にいる。長い時間こもっていることが多いが、できるだけ邪…

『The Bird Tribunal』冒頭部試訳 その1

『The Bird Tribunal』冒頭部試訳 その1 息が上がってきた。しんとした森のなかを、もうずいぶんと歩いている。たまに、鳥の甲高い鳴き声が聞こえてくる。灰色の裸の木やひょろ長くのびた若木、わずかに青緑色がかったビャクシンの若枝に四月の弱々しい陽光…

『Six Stories』冒頭部試訳 その2

森のなかの開けた場所で足をとめ、水筒から紅茶をカップに注ぐ。どこもかしこも湿っているのですわりたくはない。詩人みたいなことを言うようだが、ひとはときに立ちどまり、静寂に耳を傾けたくなることがある。わたしもここに来ると、樹の下に立って静けさ…

『Six Stories』冒頭部試訳その1

スカークロウ山 二〇一七年 森の、そのあたりは見覚えがあった。楽しかった思い出の燃えさしに次々と火がつき、充実感に包まれる。ここに来れば来るほど懐かしさがよみがえる。樹々は、当時と変わらない、やつれた顔でこっちを見下ろしている。 この森とはじ…

海外ミステリーのブログは eichida.hateblo.jp/ へ!